「押しつぶされているのは沖縄人全員」知事選で悪意ある動画拡散、SNSとの向き合い方は
「押しつぶされているのは沖縄人全員」知事選で悪意ある動画拡散

13日投開票の沖縄県知事選を巡り、「沖縄ヘイト」と呼べる悪意に満ちた情報が交流サイト(SNS)上で拡散している。注目の高まりとともに差別や誹謗(ひぼう)中傷が激化し、選挙後も続く悪影響を危惧する声が県内外で上がっている。

県民見下す露骨な論理

広島修道大教授の野村浩也さんは「日本人による沖縄人差別が今までで最も猛威を振るっている選挙だ」と指摘する。基地を押し付ける差別を行えば、反対されるのは当然のことなのに、沖縄戦の時と同様に「敵のスパイ」「反日」のレッテルを貼って、被害者である沖縄人を加害者のように仕立て上げて攻撃していると述べる。

玉城デニー氏をローラー車で押しつぶす人工知能(AI)映像が出回っていることについて、野村さんは「ここで押しつぶされているのは保守も革新も関係なく、古謝玄太氏を含む沖縄人全員なのだ」と語る。また、日本保守党の北村晴男参院議員が「基地負担をポジティブに生かす県政に」と演説したことに対し、「『喜んで犠牲になれ』と沖縄人を見下す露骨な捨て石イデオロギーだ」と批判する。

さらに「沖縄以外の知事選では全く争点にならない国益への隷従を差別的に要求する言説もまかり通っている」と警鐘を鳴らし、翁長雄志元知事の言葉「うちなーんちゅ、うしぇーてーないびらんどー(沖縄人を侮蔑するな)」を引き合いに出しながら、「今、抵抗の声を上げなければ『喜んで基地を受け入れている』とされ、私たちは尊厳まで奪われる」と訴える。

民主的対話の回復必要

作家の崎浜慎さんは、知事選に関して「沖縄ヘイト」の動画や言説が意図的に事実をゆがめられて流通していると指摘。ただ、規制法の実効性は低く、表現の自由の観点からも制限をかけるのは難しいと話す。

県内メディアが丁寧にファクトチェックをしているが、差別的発言をする者は事実に重きを置かず、その目的は憎しみをあおり立てることにあると崎浜さんは言う。拡散されたデマを信じる人もおり、沖縄の中からも「沖縄」を攻撃する者が出てくる。「憎しみは無方向に広がる」と危機感を示す。

ヘイトスピーチは抽象的な他者の属性を攻撃の対象にするため、その「レッテル貼り」にあらがうには具体的な個を見ることが大切だと崎浜さんは説く。例えば他国出身の友人が一人でもいれば、無責任な外国人ヘイトは行われないだろうと述べる。

「一人一人の意見が異なるのは当然であり、だからこそ相手と顔を合わせて『対話』することが求められる」と崎浜さん。今回の誹謗中傷やデマは他者同士の対話の道筋が断絶していることから来るものであり、「民主主義的対話がなされた上で代表者を決める選挙が成り立つ。その過程を回復することを目指さなくてはならない」と強調する。

批判や風刺の域超える

作家のオーガニックゆうきさんは、選挙が候補者同士の競争から憎悪のぶつかり合いになっていると感じるという。SNS上にはデマや誹謗中傷があふれ、街頭演説では候補者を批判するのではなく聴衆を威圧するような場面も目撃したといい、「民主主義が壊れかねない」と語る。

玉城氏がローラー車で押しつぶされるAI映像についても「批判や風刺の域を超えて、暴力と憎悪を扇動する意図があるとしか思えない。候補者にも有権者に対しても、威圧効果、侵襲性は大きい」と指摘し、「一部の人がおかしなことをしていると片付けられる状況ではない」と訴える。

デマの発信元は県外が多いと聞くといい、「沖縄の民主主義をもてあそぶような悪意を感じてしまう」と語る。民主主義に批判は必要で、時には強い言葉が飛び交うこともあるが、「他人の尊厳を傷つけ、暴力につながるような発言は、どの立場でも許されない」と述べる。

最後に「憎悪をあおる誹謗中傷をやめようと言えるように、自分が憎悪をあおる加害者にならないように。健全な言論空間を保つため、熱を帯びる選挙戦の中でも、他者を尊重する冷静さを忘れずにいたい」と結んだ。

沖縄の苦悩見せ物扱い

ノンフィクションライターの安田浩一さんは、知事選を巡るX上の投稿の大半が「本土」からの発信であったと指摘する。誰にも沖縄の在り方に言及する自由はあるが、「今のデジタル空間にあふれるデマや誹謗中傷は、沖縄の政治闘争を『おもちゃ』としてもてあそんでいるとしか思えない」と語る。

県外から差別的な言説を垂れ流す人々は、他者がどれほど傷つき、不快な思いをしようが気にしていないとし、その姿は古代ローマの闘技場コロッセオで命を懸けて戦う奴隷を眺めていた観客と重なると述べる。「そこには当事者意識などみじんもない」と安田さんは言う。

そもそも沖縄の人々が投げかけてきたのは「なぜ沖縄だけが重い基地負担を負うのか」というシンプルな問いだ。この訴えに「本土」の人間は真剣に向き合ってきただろうか。多くの人にとって沖縄は青い海と空を楽しむだけの場所に過ぎないのではないかと問いかける。

「なぜ差別が駄目か。その先にあるのは殺りくや戦争だからだ」と安田さん。沖縄が地上戦の舞台となった背景には沖縄差別の構造もあったと考えており、「差別は確実に被害者を生む。社会を壊す。沖縄の歴史や苦悩を『見せ物』のように扱う言説を決して許してはならない」と強く訴えている。